骨棘とは読んで字の如く、骨が棘のように尖って変形することである。 関節部の摩耗によって起きることもあるし、外傷をキッカケにして起きることもある。
多いのは「踵骨棘」といって、カカトの骨に出来、歩く度に釘を打たれるように痛いと訴える症例だ。
私自身、かなりの症例を診たことがある。
面白いことに、痛み自体は棘に原因があるわけではなく、そのほとんどがふくらはぎにある筋肉のTPから来るものであったり、百歩譲っても、痛む部位とは微妙にズレている土踏まずの筋肉に原因があったりするのである。
まず9割方は骨棘化が原因でない。
(だから治せるのだけれども)
不要な手術をされる人もいると聞く・・・気の毒なことだ。
踵骨棘ではないが、最近、面白い症例に出遭ったので紹介したい。
60代女性。
足の甲が痛むという。
経過はこうだ。
ある時、足を挫いたそうだ。
普通は足首にくるものだが、この方、たまたま、足の甲を捻ったらしい。 当然、激痛が走り、一歩も動けなくなった。
しばらく後、ようやく医者に行くことができるまでになったので、病院で検査をしたとのこと。
骨折はないが、甲の骨が棘にようになっていてそれが原因である、と診断された。
手術するまでもない、とのことであったから、注射を打ち、痛み止めを服用し、湿布を貼り・・・とお決まりのコース。
しかし、治る気配が全くない。
歩く度に足の甲が痛み、不便極まりない状態がしばらく続いたそうだ。 そこで、その方、病院に見切りを付け、評判の良い接骨院に行った。
幸いにして、そこでの治療は効いたらしい。
『痛いところをグイグイ、グイグイ揉むのよ。痛い!と言っても聞いてくれないの。まあ、とにかく痛かったわ・・・でも、ウソみたいにケロっと治ったの』
それが数年前とのこと。
しかし、季節の変わり目とか、疲れが溜まったりすると、前ほどではないにしても疼き、それなりに不便な思いをするのだそうだ。
治してもらった接骨院に行けば治るのは分かっているらしい。しかし、あまりにも治療が痛かった記憶があるので、ついつい我慢し行かずにいるとのこと。
そして、私の顔を覗きこんで『なんとかなるかしら?』
(ただし痛くしないという条件付きよ、と顔に書いてあった)
「おやすいごようです」と私。
普段は、安請け合いするタイプではないのだが、経緯を聞いていて原因についてピンときたからである。そしてそれはまず間違いないという確信があった。
接骨師が悲鳴を上げるほどの強揉みをしても、炎症も起きず、悪化もせず、逆に治ったという事実。骨棘が原因なら、炎症が起きてたちまち悪化するはず。これはもうTPの関連痛以外の何物でもない。
しかも、体調や環境によって定期的に疼くという。これもTP活性の特徴を備えている。
ズバリ「短趾伸筋」という筋肉のTP活性が原因である。
足の甲の上部、やや外側にある。リフレクソロジーをやっている者なら「外肋骨」の反射区近辺だといえばイメージしやすいかもしれない。
とりあえず、触ってみることにした。
するとたしかに骨棘化している。
「ここ?」
「そこっ!」
身体をビクンと震わせ、痛みを全身で表現した。
「なるほど、これは痛いですわね。たしかにここは骨が尖っちゃってますもの。これね、ここ、これだ・・・ハハ、痛いねぇ」
接骨院での悪夢が蘇ってきているのか、身体が固まって声もない。
「大丈夫、だいじょうぶ、痛くしないで治しますからね」
(そんなことをつぶやく歯医者さんがいたっけな)と思いながら、おもむろにパーカッション・ハンマーを取り出し、振動数を合わせながら、短趾伸筋に当てた。
インターバルがわりに違う部位にもかけながら、計5分ほども当てていただろうか。
硬直していた身体が弛緩した・・・どころか、軽い寝息を立てている。 ことほど左様にパーカッション・ハンマーは気持ち良い。
そう、この手があったので「おやすいごよう」と安請け合いしたのだ。
さて、肝心の結果は・・・・
捻っても引っ張っても押しても、痛みがなくなっているのには驚いた様子。
『あらっ?あれっ?不思議・・・痛くない・・・治ってる!』
「おやすいごよう&大丈夫、痛くしないで治しますから」発言をものの数分で実現させたわけだから、驚くのも無理はない。
リスペクトの眼差しはいつ受けても気分が良いものだ。
さておき。
先に面白いと症例だと言った。
触った感じは間違いなく骨棘があるのである(第4中足骨と外側楔状骨の関節の当たる部位だろうと思う)
しかし、それ自体が神経を刺激して痛みを出しているのではなく、その骨棘が筋肉(この場合、短趾伸筋)を刺激してTPの形成を促し、そして体調、環境によってそのTPが活性化して痛みを出しているという実にTP機序の典型的な症例だから面白い、と言ったのある。しかも短趾伸筋はTPが出来たその部位が痛むという特徴がある。
故に誤診する典型的な例なのだ。
現実に痛いという部分の骨が尖って変形しているわけだから、それが原因だとするのは無理もないことだし、責められることではない。
しかし、現代の医学は命に関わらない病態についての研究はどうしても後回しにされる。薬剤投与の対象外についても。
我々はその盲点、狭間にいる。医学の研究で後回しにされている部分を補うことができる立場にいるのである。
その立場にいながら、的確な判断処置が出来なくてなんの価値があろうか。
(もちろん、慰安には慰安の価値はあるけれども・・・)
何年も何十年も慰安婦or慰安夫を続けていけるはずはないと思うのだが。