たまたま、卒業生から突発性難聴についての質問があった。
曰く「胸鎖乳突筋を緩め、星状神経節の緊張を解く施術をする。これ以外に何か重点はあるか?」
なるほど、突発性難聴と聞いて、真っ先に胸鎖乳突筋と星状神経節を挙げてあるところなどは、よく復習していて感心、感心と大いに気分をよくした次第。
教えたことをちゃんと覚えている!当たり前のことだが、存外に嬉しいものだ。(教える立場になるとよく分かると思う)
さて、耳の症状は、耳鳴りであろうと、めまいであろうと、そして今回のような突発性難聴であろうと、ファーストチョイスは胸鎖乳突筋である。
この筋の緊張は耳周辺、及び内耳のリンパ流を著しく阻害し、ある者は慢性的な頭痛、ある者は顔面の深部痛(三叉神経痛様)、そしてある者は耳に関連する症状に悩まされることになる。
上記のどの部位に出るのか?あるいはどのような症状として現れるのか?こればかりは個人差、体質差があるので、予見することはできないが、根っこは同じところにあるということを知る必要があろう。
また、耳鳴りは咬筋や外側翼突筋もほぼ同じ頻度で過緊張している為、「胸鎖乳突筋」「咬筋」「外側翼突筋」をして耳鳴り三要素と呼ぶことがあり、そして、この突発性難聴もそれに準じて考えて良い。
施術を標準化して考えるならば、首、肩のコリを充分に取って、述べた「胸鎖乳突筋」「咬筋」「外側翼突筋」を重点として行えば良いということになる。
またクラニアル・マニピュレーションも脳脊髄液の循環を良くするのと同時に、頭筋群や頭皮を緩ませるので手助けになろう。
さらに稀ではあるが、退化筋である耳介筋がひどく凝っている場合もあって、これを緩めると相乗効果があることもある(めまいの症例で特に)。
このように細かくいうと、幾つかの手技が功を奏する場合もあるが、これとて、胸鎖乳突筋へのアプローチがあってこそのものである。逆にいうと、胸鎖乳突筋へのアプローチなしでは、いかなる手技もそれら単独では著効には至らないとも言える。
ことほど左様に耳の症状は胸鎖乳突筋の関与が大きいわけだが、耳に症状が現れる体質とはどのような特徴を持っている人々なのだろうか?
経験からいうと、フルフォード博士がいうところの「直腸反射」の起きづらい体質を持つ者であると思う。
直腸反射とは、直腸から胸隔全体に広がる反射構造を持つもので、その不全は内臓のリンパ流に影響を与え、最終的には内耳リンパ流を阻害する。
胸鎖乳突筋の過緊張が必ずしも、耳の症状に至るわけではないのは、直腸反射が十全に働いているか否かの相違によるのである。
であるならば、その体質そのものを変えていけば再発防止になるし、耳に関連する症状のみならず、内臓、特に呼吸器系の健全な機能維持に役立つはずだ。
では、どのような方法(手技)がその「直腸反射」なるものを改善し得るのだろうか?
フルフォード博士は「尾骨に一撃を加えるだけ」と述べている。
字面を見ると穏やかな表現ではないが、子供を対象にしている為(中耳炎治療)、優しい一撃で充分である。
このように仙尾骨の拘束が直腸反射の阻害要因となるのだが、子供はそれに対する一撃で充分に解放できるにしても、長年に渡って歪みが固着した大人の場合はどうだろう?
実は非常に難儀する。
まず優しい一撃ではとても拘束解放には至らない。
様々な試行錯誤を重ねたが、現在のところ概ね以下の手順で行えば功を奏するようだ。
a.仙尾骨周辺を緩ませる
アクチベーターやパーカッション・ハンマーがあれば容易である。なければ、手でもなんとか・・やや痛いが。
b.大殿筋第3TPへのアプローチ
c.内転筋第1TPへのアプローチ
d.按腹
腹証-小腸、大腸反応ゾーン。
李下部も重点。
以上を操作を加えると再発しづらく、仙尾骨拘束という根本的な歪みの是正に寄与する。
しかし、繰り返しになるが、短期間で、目に見えた改善感を与えるには胸鎖乳突筋へのアプローチが必須である。