そもそもクライアントに対して何をしてあげたいのか?
難しいことをいうと理解されないので、辛い身体の症状を取ってあげる、楽にしてあげる・・・とまあ、こんな感じで表現することが多い。 全くもって正論かつ異論のないところだろう。
しかし、これは施術の大前提であるから、我が流儀の特長などではなく、どの流派でも謳うところではある。
(逆にそれを謳わない流儀はあり得ないとも言える)
結局のところ、それぞれの流派の特長は、そこに至る手段をどう考えているのか?ということになるわけだ。
ある流派はリンパ流を前面に打ち出しているかもしれないし、血流かもしれないし、自律神経のバランスや骨盤の歪みを旗印にしているかもしれない。
しかし、陰陽論Ⅱで述べているように、リンパ流にしても、血流にしても、自律神経のバランスや骨盤の歪みにしても、それは認識され得る「陽」と考える。この考え方こそ、我が流儀の特長である。
つまりそれらを目立つことなく陰で支え、その実態を容易に掴ませることのない裏方の機能、陰の作用、つまり経絡。その経絡反応を起こさせることこそを第一義と考えているということだ。
経絡は身体の諸機能の中では陰中の陰であるから、その実態は雲を掴むような頼りなさがあるかもしれない。
しかし、施術の仕方によっては必ず実感できる類のものなのである。
この感じを説明するのは非常に難しいので、「癒やしと治療の高度な融合」とか、それに類するキャッチコピーを使用したりするが、それでも分かりづらいかもしれない。
しかし、「まずやってみなはれ」で実践していただくと、言われたとおりにやっているだけなのに成果が出る、効果が出る、ということに驚くはずだ。
(実際、そういう受講生の声が大半なのである)
風呂屋でやっているリラクゼーションケアなどとはレベルの違う効果・・・つまりこれこそ理屈抜きの経絡反応の証(あかし)と言えるだろう。
論を深めることはいくらでもできるが、大事なのはそれで成果が挙がるのか?現実問題として、治癒に向かうのか?ということに最後行く着くわけだから、経絡のことを知らずとも期せずして経絡を最大限に反応させていることになる。
逆に論語読みの論語知らずという言葉があるように、経絡の走行などを詳しく知っていても、その反応を起こさせることができないのであれば、臨床上、意味を為さないことはいうまでもない。
本質は陰にあるという考え方から導き出された経絡反応を起こさせる施術。 これこそ、陰陽論を具現化した我が流儀の特長だといえる。
しかしながら、依然残された問題がある。
症状のあるところを攻めてしまうと、せっかく技法的には本質に近づいているのに、施術そのものが陽法となり、本質からズレてしまう。
そこで経絡治療においては、経絡の中においても本当の原因となっている虚のコリ(陰のコリ)を見出し、そこを治療するということになっている。
そこは症状とは一見なんの関係もないような部位であるが、それが見いだせるかどうかが経絡治療の眼目であろう。
つまり、技法的にも経絡反応を起こさせるとう本質に近づき、治療そのものにおいてもズバリ本質を突くことこそ、経絡治療の真骨頂なのである。
しかし、経絡反応を起こさせることはまだしも、虚のコリを見出すとはどういうことか?
実はこれこそ名人芸にして最高到達点であって、おそらく才能ある者でも10年~30年、並みの才能ならば生涯をかけても会得不能の境地である。
いくら素晴らしいと言っても、会得に30年もかかるのでは現代でほとんど意味がなさないではないか。
しかも、それだけやって会得を断念するとなると、昔、司法試験浪人を10年もやって結局、合格できずに廃人同様になってしまったということを聞いたことがあるが、そういう類の人になる可能性大である。
ところが、この虚のコリを体系化し、マニュアル化してしまった人物がいる。 このHPでも紹介しているDr.Janet TravellとDr. David Simon の両博士であるが、彼らは1983年に「トリガーポイント・マニュアル」という本を上梓して以来、こんにちに至るまで反響を呼びつづけているものだ。
一時期、日本のおいてもトリガーポイントセミナーが大流行で、様々な人々が講習会を開いていた。記憶にある方もいらっしゃるだろう。
なぜそれほど反響があったのか(今もあるが)?
答えは簡単、効くからである。
『この歪みを治して、骨盤のここを調整して、足の長さを揃えて・・・ああでもない、こうでもない・・・・よしこれでどうだ?』
『え?痛みが取れてない?』(う~ん、弱ったなぁ)
こんな施術家にとって、万能治療器を与えらたようなものである。 その即効性に驚愕した施術家も多かろう。
しかし、経絡からこのトリガーポイントを読み解き、運用面において経絡反応を起こさせる術法を用いるに至った施術家を未だ知らない。
トリガーポイントは経絡反応を起こさせるという運用によって、さらに劇的な効果を見せる。これは取りも直さず、トリガーポイントとは経絡上の虚のコリであることの証左であると言えるのである。
一つ一つ検証していくのは容易ではなかったが、生来の好奇心旺盛の性格故に続けてこれた。単にそれだけだから、何もエライわけではないが、陰陽論の相対性に感じるものがあって経絡に興味を持ち、さらに経絡治療上のキモである虚のコリとはTPではないか?という仮説を立て、経絡反応の術式で検証していくという手法は手技療法史上初である、という自負はある。
しかも、それが現に機能し、絶大な効果を挙げているわけだから、もはや理屈をこねくり回す必要もない。
(が、理屈をこねるのも生来の性格だから仕方がない)
結論的にいうと、陰陽論はあるかないかあやふやなで頼りない経絡というものに理屈上の存在証明を与えた。故にそれを探求し、経絡の中でも陰中のキモである虚のコリを如何に体系化し、受講生諸君に提示し得るか、という命題に挑むキッカケになったのである。
そして10数年の歳月を経て完成させた。
犠牲を伴うことなしに一つのことを成し遂げることはできない。 ご多分にもれず、私も多くの犠牲を払ったが、卒業生が多くのクライアントに相対し、苦痛を取り除いていくその姿を見ていると、その苦労もなかったかの如く吹き飛ぶ。
故に一片の悔いもないのである。
完