五十肩の病名

 五十肩・・・ありふれた症候ではあるが(であるが故に)、授業では必須の症状解決法として、力を入れているところでもある。

 

 一般的には五十肩と一括りにしているが、現在、検査装置の発達によって幾通りかの病態に分けることができるようになっている。

 

1、肩の深部の筋肉に断裂が起きて痛む「腱板断裂」
2、同じく深部筋の石灰化が進んで起きる「石灰性腱炎」
3、腕の筋肉の腱の炎症によって起きる「上腕二頭筋長頭腱炎」

 

 その他、数は少ないが「変形性肩関節症」や「関節リウマチ」によって痛む場合もある。

 

 以上は、西洋医学での立て分け方であるが、整体の場合はこれらを区別せず処理する。しかし、いずれも功を奏するのだから面白い。これこそ整体の醍醐味と言えるだろう。

 

 もちろん、西洋医学的な正確な診断とそれに基づく的確な処置によって寛解に至る場合も多いとは思う。

 

 しかし、慢性化してこじらせてしまった肩の痛みには、診断がどうあれ、我々の整体的処置のほうが効く。

 

 これをはっきり確信したのは自分自身が肩の痛みで苦しめられたときであった。五十肩と言われる肩の痛みはこじらせるとこれほどのものか!というくらい痛みが強く、悩まされた。

 就寝していても、わずかな肩の動きで痛みが出て、その痛みによって目覚めてしまう。睡眠不足に陥ること甚だしい。
 やがて、就寝時だけではなく、普通に起きていても、激痛が走るようになった。どのような体勢をとっても痛むのである。服の着替えなど拷問にも等しい。

 

 たまらず、最新設備のある病院を探し、駆け込んだ。

 

 その病院は、超音波診断装置で患部をリアルタイムで観察し、そしてそれを見ながら医師は患部目掛けて薬液を打つ(ステロイド剤)というまさに最新の治療法を行っていた。驚いたことに、その診断装置は患者から見える位置あり、患者もまたその画像をみながら説明を受け、受療できるというものであった。

 

 診断名は「上腕二頭筋長頭腱炎」
 腱の若干の断裂を指摘され、それが元で炎症を起こし、水が溜まっているという。
 私は医師ではないので超音波画像を正確に読み取ることは出来ないが(この黒くなっている部分、これが水が溜まっている状態です)という医師の説明は自分がリアルタイムで見ているだけに説得力があった。(なるほど~こんな状態なら痛むのも当然だなぁ)と得心しながら、医師の行う治療法に委ねてみることにしたのである。

 

 肩関節付近に打つ注射はかなり痛いものである。が、この慢性的な肩の痛みが緩和するのならば何ほどのこともない。ましてや、画像をみながら、最適と思われる部位を判定し、最強の抗炎症剤であるステロイドを打つのである。大いに期待が持てるではないか。ステロイドの副作用なども、この際関係ない。なにせ緊急避難的にこの痛みを抑えてもらわねば、仕事どころか、日常生活さえ支障を来すのだから。

 

 そして、その治療の結果は・・・・

 

 全く痛みが減じない。
 正確にいうと、痛む箇所が微妙に変わってきたという感じだった。変わっていても痛みの強さには変化がない、どころか、手首まで痛くなりはじめ、帰りの車の運転さえ難儀する有り様であった。

 

 (むぅ~なんということだ、なぜだ、なぜ痛みが緩和しない!断裂による炎症ならば、ステロイドで狙い撃ちできるはずではないか!おかしい!絶対におかしい!)

 もちろん、すぐに効果が出るものでもなく、少し時間がかかるのかもしれない。それも考慮に入れて、痛みを我慢しながら、2日間ほど様子を見てみるも変化はなかった。

 

 ここに至って万事休す!

(まずい、まずいぞ、これは・・・・)


 アテにしていた治療法も効果なしと分かったとき、がっかり度合いは半端でない。今考えれば、大げさかもしれないが、ほとんど絶望に近いような心境であったように思う。

 

 ここまで重症化させたのは間違いなく自分が悪いのであるが、この痛みに無力である現代医学を呪いたくもなる。

 

 痛み止めはほとんど効かないが、それしか手がないのである。つらい実につらい・・・服用し過ぎで朦朧とした頭であったが、もう一度冷静に考えてみることにした。

 

 上腕二頭筋長頭腱炎であるという。
 これは、自分の眼でも確認した。水が溜まっているのも見ている。医者がウソをついているのでない限り、西洋医学的診断おいては誤りはないだろう。


 現在進行形的に炎症を起こしている部位にステロイドを打った。炎症部位へのステロイド・・・理に適っているではないか。


 何故だ?何故痛みに変化がない・・・

 いや・・・変化はあった。微妙に痛む箇所が違ったではないか・・・・もしかして、いや、ちょっと待てよ・・・


 これはトリガー活性ではないのか?


 手首に痛みを送る・・・肩甲下筋・・・たしか肩甲下筋だったような。調べて見る。ビンゴ!


 肩の後面の痛みと・・ん?・・後面?・・・自分の肩はどこが痛いのだろう?
 全体だ、前面も外側も後面も・・・いやそれどころではない、関節の深部痛なのである。
 え?深部痛?深部痛か・・・それでいて、強い痛みの部位が微妙に移動したりする。

 棘下筋の痛みのパターン、棘上筋の痛みのパターン、肩甲下筋の痛みのパターン・・・

 あーっやっぱり!まさにTPの関連痛ではないか!しかも、複合的にアチコチに火の手が上がっている。

 ならば、ステロイドが効かないのも、痛み止めが効かないのも、すべて辻褄が合う!

 

 TPの関連痛を固定化し過ぎて考えていた。
 複合的なTP活性化もあり得るのか?
 単独犯ではなく複数犯?

 おお、事実は小説よりも奇なりだ。

 

 こうして、今更ながらに病態を掴んだ私は、工夫を重ね、自分でTPの処理を行うようになった。驚いたのは、処置をしたその当日から眠れるようになったのである。

 

 そして、自分の身体で、TP活性が移動していく様子をまざまざと体験することが出来た。痛い体験であったが、それは実に興味深い体験でもあったのである。

 

 これほど、重症化した五十肩というのも稀だと思うが、であるが故に、TP活性と不活性の意味、沈静化させても再活性化していくプロセスなどを自身で追試できたのは大きい。

 

 整体の神(居るか居ないか知らないが)は、試練を与えたのかも知れない。必然なのか、単なる偶然かは知らないが、これら一連の体験は、後の体系化に大きな影響を及ぼしていくことになった。

 

 拙い体験かもしれないが、20数年におよぶ手技療法家としての経験を踏まえた上での体験なのである。医者が大病すると、その病気についてだけは日本一の名医になれるという。同列に論じるのは気が引けるが、眺めている風景が違って見える程のパラダイム・シフトが自身の世界観に起きたことは事実である。


 慢性化し、重症化した五十肩はどのような正式診断名がついていたとしても、TP活性が複合的に作用している。
 これは紛れもない事実である。

 

 そして、これは五十肩にだけに言えるものではない。
 あらゆる痛みを伴う病にも高い確率で言えるのである。

 

 私が五十肩から学んだ意義はあまりにも大きい。

 

 そして、経絡反応を起こさせる技法によるTPアプローチという独創的な方法論を生み出していくキッカケにもなったのである。

 

前のブログに戻る(邪骨)

次のブログへ進む(顔面痛という奇病)