前回の顔面痛に比べ、ありふれたと言ったら語弊があるが、症例的には段違いに多いのは間違いないだろう。
出自が足もみだということに関係するのかもしれないが、実際、私は膝痛のクライアントを診る機会が非常に多かった。当然ながら治癒、もしくは寛解実績も他より多いように思う。
現在は足もみはしないけれども、足もみの時代よりもさらに改善率は高く、これは、足もみがなぜ膝痛に効果的なのか?という基本原理を抑えているからに他ならないからだと思う。
膝痛には3種類のパターンがあるというのを知っている術者は少ないはずである。ましてや正規の医療関係者なら尚更知らないのではないか。
(1)一つは、純然たるトリガーパターン。つまり、大腿四頭筋系のトリガー活性が起きて、関連痛として膝痛と感じるものだ。
(2)2つ目は、軟骨や半月板の損傷、変形によって関節そのものに炎症が起きて痛むケース。
(3)三つ目は、上記二つの混合型。
(2)のケースの場合は外傷性、つまり「急性パターン」と、じっくり時間をかけてジワジワと進行していく「慢性パターン」とに分けられる。実は(2)の後者の場合が(3)の混合パターンに自動的に当てはまることになる。前者、つまり「急性パターン」は、外傷治療が優先されることは言うまでもない。
しかし、外傷性急性パターンであっても、後遺症として慢性化した場合は、当然ながら我々の守備範囲に入ってくる。つまり、(3)に分類されるということになるのである。
さて、外傷性急性パターンを除いて、整体の適応症なのであるが、いずれも良く効く。特に(1)のパターンなどは、一発改善、即日寛解に至ることも多い。
問題は(3)の混合型になるわけだが、この場合、トリガー活性も必ず起きているので、その沈静化に成功すれば痛みの半減くらいまでは数回の施術で実現できる。(あるいは一回で)
さて、ここからが少し時間がかかってしまうのである。
なにせ、軟骨の損壊、もしくは摩耗があるわけであるから、これを完全にとまではいかないが、少なくとも痛みが出ない程度にまで復元させねばならないからだ。
そもそも、軟骨の正体は何か?というと、水分を除いてはコラーゲンが過半を占める。コラーゲンはタンパク質であるから、人体のタンパク質再生のメカニズムに従うことになる。つまり不足なき必須アミノ酸の摂取。またタンパク合成のための補酵素であるビタミン類は当然の如く摂らねばならないだろう。
食養家でなくとも、ここらへんは常識なので、それなりの知識を身につけて、クライアントに対するアドバイスが必要かと思われる。
しかし、手技法家が単なる食のアドバイスに終わってしまっては、意味が無い。
手技で何を?どこまで改善できるか?
トリガーの沈静化は言うまでもなく、いかに栄養素があろうとも、血流のうっ滞やリンパ流の阻害があれば、再生に寄与できなくなることは自明の理であるから、まさにそれらを円滑ならしめる役割が求められよう。また足首の拘束は膝関節に負担をかける。よって、これらの措置も講じねばならない。
そのような手技ならではの処置を行い得るが故に治療効果が高いのである。
実はもう一つ、手技には利点がある。
それは生化学的に物理的刺激がタンパク合成を促進するということが証明されており、それをもっとも効率的に行い得るのが手技なのだ。
関節内に加える物理的刺激は、揺らすなどの刺激が効果的だが、パーカッション・ハンマーなどを使えば、さらに効率的に、刺激が関節内部へと浸透していく。
この効果は決してバカにできるものではなく、軟骨に問題を抱えて、痛みを訴えているケースでは、痛みの軽減は使わないのに比べ、数倍早まることを実感している。つまり、軟骨の再生が早まるのである。
眉唾ものだと思うわないでほしい。軟骨の再生のために、大真面目で“貧乏揺すり”を薦めるドクターもいるくらいなのであるから。(股関節の場合だが、原理的には膝関節も同じである)
最後に膝痛に対する手技の効能をまとめてみると。
○トリガー処理が行いやすい
○膝周辺の血流、リンパ流の改善を行い得る(ほとんど手技の独壇場)
○足関節を緩めることができる(三関節原理機序)
○タンパク合成を促す物理的刺激を安全に行える
「三拍子揃った」という慣用句があるが、この場合は「四拍子」も揃っている。太古、東洋医学において手技は「真ん中の柱」とされてきたが、まさに面目躍如ではなかろうか。
タンパク再生のための食養を前提とすれば、手技をファーストチョイスとしての治療手段にするのに、ためらう理由はないと思う。
というか、もっと積極的に手技の効能を評価しても良いと思うが如何だろう。