肩甲骨内縁は古来より「膏肓」(こうこう)というツボが珍重されてきたように、圧すとよく響き、またその響きによりキツイ肩コリが取れたする。肩コリ操作には必須の部位であることに異論はないだろう。
では肩甲骨の外縁はどうだろうか?
この部位には胆経、三焦経などが走行しており、意外にも頸部のコリと関係したりする。また腕の疲れやコリ、だるさなどを取る部位としても機能する。それだけではない。実は地味ながらも甲状腺や低体温症など内科的症状に影響を与える筋群が集まってもいるのである。小円筋、大円筋、広背筋などである。
小円筋は五十肩を訴える大部分の者が傷めている筋肉でもあるし、その頻度に匹敵するほど手指のシビレの原因筋でもある。
大円筋は肩の後面痛の原因となり、これも五十肩の原因となる場合がある。広背筋に至っては原因不明の背中の痛みを引き起こし、そのことを知らない限り、ここに術者の手が行くことはなく、結果、どこに行っても治らないという背部痛系治療難民を生む。
ことほど左様に、肩甲骨外縁部は治療上の役割が大きい。
にも関わらず、外縁部の施術はせいぜい肩貞穴へのアプローチ止まりで、巷に溢れているリラクゼーション施術の限界を示している。逆に肩甲骨外縁部へのアプローチが確立されているかどうかが、慰安系と治療系の分岐点足りえるのかもしれない。
ともあれ、外縁部の処置はある種のクライアントには満足と充足感を与えるようだ。
ある常連のクライアントに常連の気安さから『少し時間が余りました。ここからリクエストタイムです。どこか、もっと重点的にやってほしいところがありましたら、遠慮なくおっしゃってください』と告げた(私は本来、滅多にそういうことを言わない)
すると、その方、なんの躊躇もなく肩甲骨外縁部をリクエストしたではないか。
(ほう!そこか・・・)
あまり想定していなかったので、少々驚いた記憶がある。因みにこのクライアントさんの病名は悪性脳腫瘍。脳の大手術を一年前に受けていた。
(胆経と三焦経・・・考えてみればモロではないか・・・)
※胆経は頭部にて気血を脳髄に注ぎ、三焦経は脳膜を支配する
思うに、脳手術の後、この部位のコリ感、或いは違和感を感じていたのだろう。どういう虫の知らせか、滅多に行わないリクエストタイムで、その人にとってもっとも圧のほしいところが特定できた上、経絡とはそうしたものか!という意味でも印象に残っているのである。
難病系のクライアントには時々、リクエストタイムの時間を取って施術すると、意外な発見があって、人体の不思議さを実感できるかもしれない。お勧めする次第である。
さて、結論を言えば外縁部は地味であるが故に盲点になりやすい。大仰な病名が付かなくとも、つまり、単なる肩こりであっても、心地よい圧を感じ、そして緩められた結果、とても楽になるという症例がある確率で存在するのである。
うつ伏せでの施術で外縁部全体をカバーするのは難しいが、横向きなら術者にも受領者にも負担がかからず緩められる。我が流儀においては本来、症状別対応施術になるが、ごく一般的な肩こりなどで施術しても構わないので、準基本手技扱いで良いのではないだろうか。
時間に余裕のあるときにでも熱心に緩めてみて反応を確かめると良い。存外、満足感を得るクライアントが多いのに驚くはずだ。