最近、股関節のトラブルが増えている。
昔は膝痛止まりだったものが、現在、膝の痛みの軽減を図る方法が普及していて(サポーターとかヒアルロン酸注射とか、内視鏡手術とか)、かなり誤魔化しが効くようになったのが一因でもあろう。
なぜなら、膝関節は足関節と股関節の補正器官で、各歪みの応力が膝に集中するという特徴を持っている。ここで、膝の歪み応力転位を誤魔化したとするならば、その上位器官である股関節が責任を負わねばならなくなるからだ。
もともと股関節は骨盤を安定させる機能も持つので、極めて丈夫であり、トラブルに強い部位だ。ところが、その強い部位であるはずの股関節異常が激増しているという背景には、膝に対する抜本的な処置がなされてないという理由の他に、また別の要因も探ってみる必要があると思う。
調べてみると、どうも日本人は先天的な「寛骨臼形成不全」が多いらしい。寛骨臼というのは股関節の骨盤側で大腿骨を受け止めている丁度臼のような形をした部位だ。ここでの形成不全というのは当然、関節そのものが浅くなって、位置異常を起こしやすいということになる。それが加齢とともに(筋力低下)、或いは膝の歪みの応力転位によって収まりが悪くなって、機能不全に陥っていくと・・・こういう理由があることが分かってきた。
人種や民族によってある身体の部位に欠陥が発現しやすいというのは周知の事実である。我がヤマト民族は、その他にも首のトラブルが多い。「後縦靭帯骨化症」(首の靭帯の一つが石灰化していく厄介な病気)などという奇病は白人にはほとんどいない。アジア人、とりわけ日本人に多いのである。
寛骨臼形成不全もしかり。
こうした民族的特性、かつ長命化によって股関節トラブルが増えているということでもあるのだろう。
これは遺伝的なものなのか、乳幼児を背中におんぶして、知らず股関節に負担をかけてきた結果であるものなのかは分からない。前者ならば打つ手はないし、後者ならば、そういう習慣はもうないので、自然に減っていくことだろう。
仮に後者だとしても、しばらくの間は、股関節異常の適齢期(中高年以上)が続くので、すぐには減らない。つまり、適応症であるクライアントが減らないということになるわけだ。故にその対処法をしっかり身に付けて置くことの重要性は変わらないことになる。
股関節の異常は一般にいう「骨盤」の歪みを生む。具体的には仙腸関節のズレを生じさせるのだが、そのことによって仙骨底の傾きが発生する。仙骨底がわずか1ミリ~1.5ミリ傾くだけで、脊柱起立筋のマッスルトーンが変化し(左右の硬さが変わる)、TP形成の要因となっていく。そのTPが活性化すると、腰部や殿部の痛みとなって現れる。
ギックリ腰で骨の周辺ではなく横腰部に痛みが発生しているのをしばしば見かけるが、これは脊柱起立筋(腰腸肋筋)の急激なTP活性が原因である。つまり、そのような症例も元をただせば、自覚症状あるなしに関わらず股関節の問題から来ている可能性がある。
さて、その股関節の治療であるが、「標治を先とす」という原則に従って、まずは痛みを取らねばならない。股関節に痛みを送る筋肉はほぼ決まっていて、それらのTP処理をするのがファーストチョイスとなる。丁寧に施せば、一回の治療でかなり痛みは軽減されるだろう。
しかし、問題はこれからだ。
股関節は体重を支えているのと同時に歩行によって常に使わざるを得ない宿命を負っている。まさか、仕事を休んで寝たきりになってくれ!と言うわけにもいくまい。そうすると、仮に痛みが軽減、緩和されたとしても、日常生活を送るというだけで、元に戻りやすい。しかも、いつもより痛みが緩和しているのであれば尚更、張り切って仕事等を頑張ってしまう。これによって施術当初は、緩和させてはぶり返すというイタチごっこ、もぐら叩きの様相を呈してしまうのだ。
特に我々のところに来院するクライアント層は、病院、接骨院等のみならず他の治療系サロンの治療をすでに受け、どうにもこうにもならなくなって受診するケースが多い。つまり重症化しているということだ。
ここに股関節治療の難しさがある。いわゆる「面倒な客」の範疇にも入るのかもしれない。施術家も晩年になってくると「面倒な客」お断り!の方針でやることもあるが、これは自身の消耗を防ぐためにはやむを得ない場合もある。しかし、若い諸君はそんなことを言っていたらバチが当たるというもの(笑・・ま、バチは当たらないと思うが、ウデを磨く機会は失われる)。施術というのは、技術は最重要だと思うが、基本的に全人格的に行うものである。ましてや、手技療術はクライアントの身体に直接触る行為によって成り立つわけだから、信頼関係の醸成は不可欠である。その醸成は技術のみならず、勿論カウンセリングはいうに及ばず、言葉では表現できない何か、親身、親切・・・う~ん微妙にニュアンスが違う・・・誠意、誠実さ・・・そういった滲みでるような人格的要素もまた必要だということだ。
股関節問題を抱えたクライアントはその症状の特性上「面倒な客」になる可能性が高いわけだから、そこは訓練だと思って、面倒くさがることなく、焦ることなく、愚痴に嫌気さすことなく、誠実に行うことだ。それがそのまま自分を磨くことになる。というわけで、股関節問題の施術は色んな意味で自分の忍耐力を養う絶好の機会なのである。
※痛みを取るということなら殿部筋群と腰方形筋の施術がメインとなるが、やはり、三関節原理に基づいて、膝関節と足関節の処置を行い、股関節にかかる負担を軽減させる施術によって、より抜本的な問題解決を図るべきであろう。しかし、初期での施術で強い痛みを抱えている場合は、そこまでの余裕はなく、標治に終始することもある。これはやむを得ないだろう。