古典経絡ではなく、増永経絡に深い感銘を受け、影響されて施術家人生の大半を過ごしてきました。そして、実践し続けてきたその結論は、経絡反応は確かに存在するし、またそれが最大に発揮されたとき、思いもかけない治癒の転機になると確信を持つに至ったのです。
経絡はその人の原始感覚が優位になったときのみに働きます。そして、その原始感覚は施術者自身もまた原始感覚優位になったときに共感しあい、共鳴して起きていくのです。
このことを発見し実感したときの喜びは今でも忘れようがありません。
その経絡反応を惹起させたまま、トリガーポイントにアプローチしたときに起きる治癒の転機は予想をはるかに上回るものでした。
ですから、私のトリガーアプローチの根底には経絡的な機序があるのです。
増永師が講習で行ったあまりにも有名な経絡実験に「2点間弁別による経絡証明」というものがあります。
例えば腕なら腕を他の人が両の親指、2点で押します。このとき、指に力を入れて力押しします。次に親指2点で押すのは変わりませんが、今度は指に力を入れず、腰あたりからのパワーを腕に伝えて指を沈めるようにして押します。
物理的な力は同じなのに、前者は2点で感じ、後者は1点で感じるのです。敏感な受け手なら親指と親指の間に名状しがたい“何か”が流れ、それが指と指をつなげているので1点にしか感じないということが分かるはずです。
その“何か”とは経絡の流れであり、流れの中に圧が埋没するが故に2点には感じないのです。
つまり、経絡の流れは押す人の態度、押し方によって変わるもので、極めて繊細でデリケートなものだと言えるでしょう。
しかし、いったんコツを得たら、それほど難しいことではありません。身体の全編をそのような操作の仕方で行えば、一つ一つの操作が全て経絡の流れを促進する形になるので効果があるわけです。
そしてそれを「経絡反応」と呼ぶわけです。
増永静人師(1925年生~1981年没 享年57歳)
故増永師が体系化した経絡治療の眼目はなんといっても経絡の証診断体系だと思います。
しかし、これはとてつもなく難解で、場合によってスピリチュアル的な能力も要求され、凡人が修得するにはあまりにもハードルが高いと申せましょう。
増永師の真の功績はむしろそのような難解な体系にあるのではなく、経絡の実態を細胞間伝達であると仮説化したことにあるのではないかと思っております。
❝気❞という超常的な概念から、細胞間伝達という現実世界、つまり肉体レベルでの現象説明を試み、それを実効化を伴わせながら成功させた唯一の治療家だと思うわけです(東洋において)
経絡機序が一種の細胞間伝達なら、筋トーヌス(力まない筋力)を使い、圧を安定させ持続させることの意義が明白になるのです。何故なら、圧力という情報が細胞から細胞に伝達され目的を達するまでにはタイムラグがあるからであり、その圧の種類は「圧勾配」では充分ではないからです。
(臨床上実感しないことにはピンとこないでしょうが)
いずれにせよ、霊力とか気の力という曖昧なものに逃げることなく、物理的、肉体的な治癒機序を指し示しているが故に、今後益々療術界に大きな影響を与えていくに違いありません。